大判例

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京都地方裁判所 昭和47年(ワ)413号 判決 1973年1月25日

原告

川浪中

右代理人

春木利文

被告

財団法人衣笠会

右代表者

梅原哲雄

主文

一  本件訴をいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

原告

1  昭和四二年四月二三日京都市北区北野下白梅町二九番地衣笠会館において開催された被告財団法人衣笠会評議員会の、別紙一(一)記載の白波瀬米吉ほか六名を理事に選任し、別紙一(二)記載の北尾半兵衛ほか一名を監事に選任する旨の決議は存在しないことを確認する。

2  右同日同所において開催された被告財団法人衣笠会理事会の、白波瀬米吉を会長理事に選任し、別紙二記載の小川庄司ほか三五名を評議員に選任する旨の決議は存在しないことを確認する。

3  原告が被告財団法人衣笠会の理事であることを確認する。

4  訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求める。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和三八年九月一六日以降現在まで被告法人の評議員であり、かつ昭和三八年一二月一五日以降現在まで被告法人の理事である。

2  被告は、繊維教育の振興と繊維産業に関する総合科学的研究およびその実用化の研究とにより広く繊維界に寄与貢献することを目的として、昭和二五年一一月二三日に設立された財団法人である。

3  被告法人は、昭和四二年四月二三日の評議員会において理事に別紙一(一)記載の白波瀬米吉ほか六名、監事に別紙一(二)記載の北尾半兵衛ほか一名を選任し、同日の理事会において会長理事に白坂瀬米吉、評議員に別紙二記載の小川庄司ほか三五名を選任する旨決議した。

4  しかしながら、右本件評議員会決議および理事会決議は、次の理由により、いずれも法律上存在しない。

(一) 被告法人の寄附行為二四条、二六条によれば、被告法人の評議員会、理事会の招集権者は会長理事であり、昭和四二年四月二三日当時の会長理事は梅原哲雄であつた。ところが、当時監事にすぎなかつた小川庄司は同じく監事であつた北尾半兵衛の氏名を冒用して、二名連名で本件評議員会、理事会の招集をした。従つて、本件評議員会、理事会は何ら招集権限のない者によつて招集されたものであるから、適法有効な評議員会、理事会とはいえず、かかる集会でなされた本件評議員会決議および理事会決議は法律上存在しない。

(二) 仮に(一)の主張が認められないとしても、被告法人の評議員会および理事会を招集するには、評議員会については評議員全員(昭和四二年四月二三日当時は二八名)に、理事会についても理事全員に招集の通知をしなければならない。ところが、小川らは、評議員会については二一名の評議員にしか、理事会についても理事の一部にしか招集の通告をせず、且つ会議の議題を明示しなかつた。

また、被告法人の評議員会および理事会の定足数は、評議員会については評議員の総数(前記のとおり二八名)の、理事会については理事の総数の各三分の二以上であるところ、本件評議員会に出席の評議員は一三名であり、また本件理事会に出席の理事も三分の二に満たない員数であつた。従つて、本件評議員会および理事会は有効に成立しておらず、本件評議員会決議および理事会決議は法律上存在しない。

5  以上のとおり、本件評議員会および理事会は被告法人とは何らの関係もない任意の集会にすぎず、従つて、本件評議員会および理事会の各決議は法律上存在しないものである。

6  被告法人は、原告の主張を争つていないが、これを争う第三者(本件決議による被選任者ら)に効力の及ぶ判決を得る必要があるので、本訴提起に及ぶ。

二  請求原因に対する答弁

請求原因事実は全部認める。

理由

一評議員会決議および理事会決議の不存在確認の訴について。

1  右の訴は、財団法人衣笠会の理事・評議員の原告が、右財団法人の昭和四二年四月二三日付評議員会決議(理事七名・監事二名の選任決議)および同日付理事会決議(会長一名・評議員三六名の選任決議)の不存在確認の訴を右財団法人を被告として提起したものである。

2  原告は、「被告法人は、原告主張を争つていないが、これを争う第三者(本件決議による被選任者ら)に効力の及ぶ判決を得る必要がある。」と主張する。

3  右の訴の適法性について判断する。

(一)  商法第二五二条(第八八条、第一〇五条第三項第四項、第一〇九条、第二四九条、第二五〇条を準用)は、株主総会決議の無効を主張する株主、取締役等の訴訟目的(紛争の根本的解決)を達成させるため、株主、取締役等が原告となり、会社を被告として、(1)株主総会決議無効確認の訴を提起することおよび(2)原告の請求を認容する判決の効力の第三者に対する拡張を認めたものと解するのが相当である。けだし、右の場合(1)および(2)を肯定することが原告の訴訟目的を達成させるため必要であるが(この場合(1)のみを肯定し(2)を否定したのでは、原告の訴訟目的を達成できず、(1)の訴は無益な訴として訴の利益が否定されることになる)、会社は右の法律関係について最も直接の利害関係を有するものであるから、会社を被告とすることなくして、判決の効力を会社に拡張することはできず、会社を被告とすることによつて、通常、会社代表者によつて充実した訴訟追行がなされ、原告の請求を棄却することに利益を有する第三者の利益が確保されるから、原告の請求を認容する判決の効力を第三者に拡張することができるからである。

(二) 株主総会決議の無効を主張する株主、取締役等が原告となり、会社を被告として、株主総会決議無効確認の訴を提起したとき、会社が当該決議の無効であることを争つていない場合、右の訴は不適法である。けだし、右の場合、会社の訴訟進行によつては、原告の請求を棄却することに利益を有する第三者の利益が確保されないから、原告の請求を認容する判決の効力を第三者に拡張することができず、原告の請求を認容する判決の効力の第三者に対する拡張を否定したのでは、原告の訴訟目的は達成できず、右の訴は無益な訴として訴の利益が否定されることになるからである。

(三) 財団法人の評議員会決議・理事会決議の無効(不存在)を主張する評議員、理事等が原告となり、財団法人を被告として、評議員会決議・理事会決議の無効(不存在)確認の訴を提起したとき、財団法人が当該決議の無効(不存在)であることを争つていない場合、右の訴は不適法である。けだし、財団法人の評議員会決議・理事会決議について、商法第二五二条を準用するのが相当であるとしても、右の場合、当該評議員会決議・理事会決議の無効(不存在)であることを争つていない財団法人の訴訟進行によつては、原告の請求を棄却することに利益を有する第三者の利益が確保されないから、原告の請求を認容する判決の効力を第三者に拡張することができず、原告の請求を認容する判決の効力の第三者に対する拡張を否定したのでは、原告の訴訟目的を達成できず、右の訴は無益な訴として訴の利益が否定されることになるからである。

(四)  財団法人衣笠会が原告となり、本件と同一の、評議員会決議および理事会決議の不存在確認の訴を、右評議員会決議による被選任理事七名のうちの一名である小川庄司を被告として、当裁判所に提起し(昭和四二年(ワ)第七二四号評議員会決議不存在確認等請求事件)、当裁判所第二民事部が、昭和四七年三月二九日、「財団法人が、原告となり、理事、監事、評議員等を被告として、評議員会決議・理事会決議の無効(不存在)確認の訴を提起することは許されないと解するのが相当である。」と判示して、右の訴を却下する判決を言渡し、財団法人衣笠会が控訴し、右訴訟が大阪高等裁判所に係属中であることは、当裁判所に顕著な事実であり、被告財団法人衣笠会は本訴においても請求原因事実を全部認めている。(なお、本件決議の内容は登記簿に登記されていない。)

従つて、本件は、右3の(三)の場合に該当し、右の訴は不適法である。

二財団法人の理事であることの確認の訴について。

1  右の訴は、原告が「原告が財団法人の理事であることの確認の訴」を右財団法人を被告として提起したものである。

2  原告は、「被告法人は原告主張を争つていないが、これを争う第三者に効力の及ぶ判決を得る必要がある。」と主張する。

3  右の訴の適法性について判断する。

(一)  Aが甲法人の理事者の地位にあるか否かについて紛争がある場合、甲法人の理事者の地位を画一的に確定して、紛争を根本的に解決するため、Aは、甲法人を被告として、「Aが甲法人の理事者の地位にあることの確認の訴」を提起することができ、右の訴に対する本案判決の効力は第三者に拡張されると解するのが相当である。けだし、甲法人の理事者の地位を画一的に確定して、紛争を根本的に解決するため、右の訴に対する本案判決の効力を第三者に拡張する必要があり、甲法人を被告とする場合、右の法律関係について正反対の、かつ、最も直接の利害関係を有する両者(甲法人とA)が対立当事者となることによつて、最も充実した訴訟追行がなされ、第三者の利益が確保されるからである。

(二) Aが原告となり、甲法人を被告として、「Aが甲法人の理事者の地位にあることの確認の訴」を提起したとき、甲法人が「Aが甲法人の理事者の地位にあること」を争つていない場合、右の訴は不適法である。けだし、右の場合、甲法人の訴訟追行によつては、原告の請求を棄却することに利益を有する第三者の利益が確保されないから、原告の請求を認容する判決の効力を第三者に拡張することができず、原告の請求を認容する判決の効力の第三者に対する拡張を否定したのでは、原告の訴訟目的を達成できず、右の訴は無益な訴として訴の利益を否定されることになるからである。

(三)  本件は、右3の(二)の場合に該当し、右の訴は不適法である。

三よつて、原告の本件訴は、いずれも不適法であるから、これを却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(小西勝 工藤雅史 榎本克己)

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